穴は穴ごと穴のまま/はるな
 
体から転がり出て、そうだな、ちょうどうちの居間の、いちばん大きな窓のこちら側にある。そこでわたしと、わたしのまわりの物ものをながめている。

気が付いてからずっと、もう遅いと思っている。九歳のときも、十六歳のときも、二十一歳のときも、ずっと、ああやっぱりもう遅いと思った。今も思っている。生きるのにも死ぬのにも遅すぎるし、これからも遅くなり続けるだろう。わたしはいまやっと、十五歳のわたしのための墓標を立てている。

意外だったのは、わたしがもう少女ではないと感じたことだ。
いつまでも彼女は(彼女たちは)、わたしであり続けると思っていた。
でも違った、女の子も、女の子たちも、そしてそこに脇役みたいにして登場した男の子たちも、もう、みないちように遠く、驚くほど思い出になってしまった。思い出!そんなものが許されるとすれば。(だって、許しも、それほど切実ではなくなってしまった。)
多くの記号が、穴を出て、またまっさらな記号へ帰っていった。そしてやっぱり穴は穴ごと穴のまま、どこかへ失われてしまった。

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