晩夏/月形半分子
虫かごがなかったので
捕まえた一匹の蜩を
膝の中でかいだしたのは二日前
膝の構造のなにがよかったのか
膝の中で蜩は、よくないたのだった
スタバでコ−ヒ−を飲んでいるときも
ス− パ− で買い物をしているときも
帰り道、子が叫んだ
あ、抜け殻だ!と
夏の間に膝の位置が少し高くなったろうか
日焼けして園児らしい細い首をして
我慢できる自分も
できない自分もゆるせない感情に
麦わら帽子をかぶせて
お前の夏休みはまだ終わらない
抜け殻は初夏のもの
それは晩夏、晩夏は
蝉の死骸のふりをして雨を待っている
お前の膝裏はよくくぼんでいる
足の甲もヨットの帆のように高い
そうしてお前をどこにでも運んでくれる
ものたちが美しいうちは
お前は好きなだけ虫かごが持てるだろう
息子よ
膝の中で蜩がまたなきだした
通行人たちは空を
不思議そうに見上げる
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