陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
! グダグダぬかすな、ババア!」マジ切れして怒鳴った後、団地中に聞こえる大声で罵りあい、チャワンやハシはもちろん,テーブルまでが飛び交う夫婦喧嘩になるのが、守田家の毎晩の恒例行事だった。
宗一郎は、闘う前に降伏するような人間を心底嫌っていた。高倉健の大ファンだった彼は、独自の「男の美学」を持っており、元来お喋りなのに無口を装い、本来器用なくせに
「不器用ですから」 と口癖のように言っていた。
宗一郎のビンタは効いた。太郎は鼻血を流しながら
「なにすんだよぉ!」
そう叫んで、宗一郎に跳びかかっていった。しかし、背ばかり高くて華奢な太郎が、二メートル近くある筋肉の塊のような宗一郎にか
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