限界集落/西天 龍
限界集落と呼ばれて久しいこの村
ランドセルの子供がひとり
学校への長い道を下っていく
蝉しぐれの中
下を向き一生懸命歩いていく
そういえば
この村の近くに高原の小さな駅があるが
その回りがある日忽然と
映画のセットのような街になった
都会からものすごい数の人が押し寄せ
キキョウやキスゲを踏み荒らし
あちこちのテレビに映し出されたが
あっという間に飽きられて
今は廃墟になっている
夏空に見上げる入道雲や秋の実り
いっしょに走り回った友達の笑い声
暮らしの中でいのちにとって本当に大切なもの
その価値をもう少し都会と田舎で分かち合えないものか
心からそう思う
そうすれば
あの子は心細げにたった一人で通学することもなく
都会のひと達は
隠された村々を一々暴き立てる必要もない
いずれ消え去ると言われる村の辻に立ち
蝉しぐれの中
かすかな希望の光を背負ったような
あの子の後姿をいつまでも見送っている
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