『うたごえ』/あおい満月
プラットホームの蛍光灯を
なぞりながら
おりてくる
ぬくもりをもった
夜の闇。
夜の市ヶ谷駅の
下には釣り堀があって
人々はうなだれながら
みたこともない
翼の生えた蛇を探している
翼のはえた蛇は
この水底のぬしで
今も深い水の底で
赤い爪の女を待っている
女は唇を切り裂いて
その血で爪を染めた
髪の黒く長い女。
*
のびきれない
前髪が邪魔だ。
夜のコンビニの
壁に凭れて
メンチカツとカフェオレを貪りながら
脂と糖分で腫らした
胸を抱えて
代々木駅のホームから
下り総武線に乗り込むと
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