満月に吠える、野良犬/服部 剛
 
夜の浜辺で一人
寂しい叫びを宇宙(そら)に放り投げる

震える声は
一枚の手紙となって、舞い上がり
静かな波の唸りの上を、舞い上がり
海の面(も)の、
月の光の道の上を、舞い上がり
満月の微笑に吸われるように昇りゆく

抱いていたのは
「君」だったのか
「女」だったのか
わからなくなっていった瞬間に僕は
崖(がけ)の上で
風に吹かれて危うく立ち
満天の星空を仰いで吠える
野良犬を垣間見(かいまみ)る

海の面の
月の光の道の上に浮かぶ
満月の微笑よ

卑小で痩(や)せた野良犬の僕は
永遠(とわ)にあなたを乞い
闇塗りの深い海に
今夜も吠えている 








戻る   Point(15)