泥を掴む或いは空の中で/岸かの子
人並みにもまれながら逆行している女がいる
(それきっと、あんたじゃん)
耳元で囁かれた生温い感傷はとうの昔に放り投げている
掴む腕は瞬く間にいつもするりと抜け
踵を返す間もなく 心臓を狙って離さない
こんなはずじゃない、そう思って生きてきた証が
私には必要
荒々しい生き方に疲れ果てた時は
子供の頃の小さな幸せが貧弱な形で浮かび上がる
何も知らなかった小さな子供の頃
赤い頬に二つ結び皆で駆けていた田んぼのとこ
感傷という干渉が他人の元にも残っているのだろうか
私は女だ
彼女も
女を選んだその人は自らの残りの人生を
誰だか知らない人と
泥船に乗って去って行った残ったのは戸籍での除籍のしるし
優しくなれた時には上か下かわからないが
何処へ行かれたか連れて行かれたか
泥を掴んだ人生はきっと私の方だ
優しくなりたい
とても優しく
空に浮かぶ雲を見ては貴女を想わずにいられない
_____おかわり!
はい、お姉ちゃん、良くお食べ____
夕焼けがまぶしくて貴方の顔が滲むのだけれど
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