クラブマリノス/草野大悟2
 
り飲みながら僕を見つめ、「ママが会いたいというからにはよっぽどのことだろう、イリアとのことしかないと思うけど?」と言ってにっこりと笑った。彼が笑うと、大きな目が優しく下がり、周りの空気までがにっこりと笑うようだった。笑顔を見て覚悟を決めた。
「倉岡さん、イリアと結婚するってほんと?」
「うん、ほんとだよ」
 倉岡は、何でもないことのようにさらりと答えた。
「でもなんでイリアなの?」
「彼女じゃないとだめなんだ」
「だから、なんで」
「イリアはね、癌で死んだ僕の妻そのものなんだ。」
「えっ? どういう意味?」
「妻の沙織と何もかもが似ている、ということさ。性同一性障害を抱えていたこ
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