クラブマリノス/草野大悟2
 
を理解した。
「私達は何も悪いことはしていない。ビザもちゃんと持っている。パスポートもある。私達は、家族に送金しなければならない。日本の警察は、なぜ、そんな私達の邪魔をするのか。私達が働かなければ、国の家族は食べていけない」    
 拳を小刻みに震わせながらイリアは叫んだ。血走った青い目には、涙が浮かんでいた。現場は、客とニューハーフと捜査員とサザンの曲とで騒然となっていた。
 倉岡は、イリアの取調べを担当した。彼は、イリアの興奮が治まるのを待った。目から充血が消え、ロシア人特有の海のような青い色に戻った時、倉岡はゆっくりと話しかけた。
「今日、ボックス席に座ってお客さんと話し
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