クラブマリノス/草野大悟2
 
挙した時、倉岡は初めてイリアと出会った。
 その時、イリアはまだ十八歳だった。日本に来たのは初めてで、日本語をほとんど理解しなかった。どうみても女としか見えない彼は、そのころはまだペニスを切ってはいなかった。
 店に踏み込んだ倉岡ら捜査員に、オオカミのような目をして挑んできたのがイリアだった。
 倉岡は我が目を疑った。
 (紗織・・・・・・)
一年前に癌で他界した妻がそこにいた。紗織は性同一性障害者だった。男の躰に女の心を持っていた。倉岡が付き合い始めたころには性転換手術を受け、戸籍上も女になっていた。
 イリアは猛然とロシア語で捲し立てた。通訳のおかげで、倉岡はやっとその意味を理
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