熱風の街/Lucy
 

口に出せば
泣くしかないに決まってる

病室に誰もいないのを見計らい
きっと父が亡くなったあとで
生きているうちに
言えばよかったと後悔するであろう言葉を
言ってみた
ただ自分のために
父がおそらく聞いていないのをいいことに

鼻をかんで
ハンカチで涙を拭って父を見たら
目を見開いて私を見ていた
皮肉屋だった父

普通はそんな事
言いたくたって
生きているうちには言えないのだ

自分で泣きたかったんじゃないか
感傷に浸りたかったのだろう
本当に辛い場面では
人はただ無言で
つくり笑顔でいるものだ

闇雲に熱風の中を歩くしかなかった
だれと心をつないでいこう
大切な人が
一人ずつ
確実に風に消えていく
この街で

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