ルオー/soft_machine
きながら、来た道をあと戻りしていった。そして暮れる街並みを見れば、そこには絵を描くことで置き去りにしてきたルオーがあった。
歩道橋に触れる山の影に、ルオーがあった。
子どもが放るボールの軌跡に、ルオーがあった。
買い物袋をさげた母親の肩に、砂利の小径の車輪の跡に、街路樹が透かす燃えるような金色に、私がひとりで忘れたと思っていたルオーは、焼きつけられたしるしのように、心にずっと消えずにあったのだ。
こんなかがやく景色の中にあっても、私はさっき感じたかすかな不快を消すことができなかった。そしてそれが、自分自身の絵に対する不満であることを知っていた。ルオーに会いたい。印刷物などではない、
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