僕が『小説』を書くきっかけになった、とても小さな出来事 (短編小説)/yamadahifumi
が今、現実はどうだろうか。僕には何一つ守るべきものはなく、コンビニで自堕落に働いては遊ぶだけ。だがこの二人は少なくとも、この小さな八百屋を何十年と守り通してきたのだ。絶えず働き、手を動かし、足を動かして。彼らはその時、もう既に何かを成し遂げていたのだ。未来を空想ばかりしている僕とは違って。僕は「杉本青果店」の前を、屈辱に満ちた思いを抱きながら通り過ぎた。二人は僕を見なかった。僕もまたそちらを見なかった。
帰省を終え、元のアパートに戻ってくると僕は、これまで自分の書いた小説のデータ、そしてその原稿用紙などを全て一斉に捨て去り始めた。その決意は、新幹線でアパートに戻ってくる時に固められたものだ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)