僕が『小説』を書くきっかけになった、とても小さな出来事   (短編小説)/yamadahifumi
 
程でふと僕は、あのすっかり忘れていた八百屋を発見したのだった。…僕はそれに、本当に何気なく気づいたのだった。『杉本青果店』。その薄汚い看板、そして店頭のざるに盛られた野菜。そして、そこで働く杉本夫妻。全ては何一つ変わっていなかった。二人はそこで相変わらず野菜を並べたり、ダンボールを畳んだりしていた。

 その二人の姿を見た時に、ふいに僕の中を電流のようなものが走った。陳腐な表現だが、それ以外に言いようがない。その時、僕はその人達がその場所を何十年間と守り抜いてきた事を知ったのだった。高校生の頃、僕は心の中でこの二人を軽蔑した。「この人達はこんな所でこんな風に人生を終えるのだろう」ーーー。だが今
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