僕が『小説』を書くきっかけになった、とても小さな出来事 (短編小説)/yamadahifumi
人生とは地味で、そしてぬるぬるした泥の道を少しずつ歩いて行く事なのだ。それまでの僕はただ、自動車に乗ってさっさとゴールに行こうと焦っていただけだ。そんな風にうまくいっているように見える人間も、僕の周りにはたしかにいた。だが、僕はこれからは一歩ずつ歩いて行こう。少しずつ、少しずつ、だ。
…そうやって、僕は本当の意味で『小説』を書くようになったのだった。そして、その結末がどうなるのか、それはまだ誰にも分かっていない。まだ、全て始まったばかりなのだ。僕は焦りを捨てて、一歩ずつ歩むようになった。空飛ぶ鷲を目指すのではなく、地を這う蛇になる事だ。草原を這う、なまめかしく美しい蛇になるのだ。そうやってほんのすこしずつ、ゴールににじり寄っていくのだ。そう、生きる事とはそういう事だ。
そう、今もあのみすぼらしい青果店を守り続けている二人のように。
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