僕が『小説』を書くきっかけになった、とても小さな出来事 (短編小説)/yamadahifumi
まず、僕がしなくてはならない事は一人の登場人物を作る事だ。自分の生命と人生を託し、僕を引っ張って歩んでくれる、そのような主人公を作り上げる事だ。世界を自分の自意識の中に引きずり込んで歩き出す、あのラスコーリニコフのような主人公を。
だが、僕はふいに思い出したりもする。杉本青果店のあの二人は今もあそこでああしているのだろうか、と。一人の人間、あるいは二人の人間が人生を生きるという事はどういう事だろうか。人は華やかな外面ばかり気にして、夢を見て生きている。かつては僕もそうであり、だからこそ、そうなれなかった自分に絶えざる不満を抱いてきた。だが、生きるという事はそういう事ではないーー。そういう事
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