/紅月
かなしみをうつくしく飾っておくために
かなしみのかなしみという蓋をそっととじて
ひとりのわたしは
それを花冷えの野に埋める
たとえ
きのうのわたしがそれを掘りかえしても
もうそこにはわたしたちはおらず
ふいに降りだした
はげしい雨がわたしの躰をつよく打つたび
抱きかかえたかなしみはからからとかるい音をたてて鳴いた
やがて
やまない雨は街を水に閉ざし
わたしたちはみな歩くことをやめ遊泳するようになった
どうか知っていてほしい
足跡は遺されるもののためにあるから
口に出さずに秘匿しなければいけないよ、と
きのうのわたしが
水没したわたしたちに言うのだけ
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