落夏/凛々椿
 
大砲の音は
鼓動を揺るがす違和の口火
冴え擦る草花
雨上がりの霄のにおいは
知らないはずの陸戦を思い出させた

涼風はとうに春を諦めている
雪をあしらった高峰を入道雲が旨そうに頬張るさまは
まるで氷菓をねだる子のように微笑ましく
けだもののように直線的で
裾野の集落は
その咀嚼を見つめている
それは静かな、
そう、とても、とても、静かだ
しんとして
不可避の歴史を食み続ける

散り散りと肌に撥ねる陽射しは
おなごの色艶にも似て
同じ夏を呼ぶ
遥かの死者は、照らされるだろうか
新たな地獄を数えるだろうか
私たちはいつも瓦落苦多のように嘆くばかり
鳥は
鳴くばかりだ
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