ヤマダヒフミの消失/yamadahifumi
ら、彼は沈黙した。そして、彼にもう話す事など一つもなかった。世界にとって彼は不要であるが、彼にとって世界は必要だった。そしてその非可逆の関係は決して変わる事はなかった。それだけは、彼の感じていた事の中で、ただ一つの真実だった。彼はこの歴史の波、そしてこの何十億の人の群れの中では、踏み潰される蟻の一匹よりもはるかに脆弱で、情けない存在なのだった。そして今、彼は世界によって踏み潰されようとしていた。そしてそれは当然、避ける事のできないものだった。
桐野はある日、突然に思い立って、自分の「ヤマダヒフミ」のアカウントを全て消した。彼は三十才になっており、もう何かを決断しなければならない年になっ
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