人間の本質を露呈させるものとしての文学/yamadahifumi
と男らしく誘ってやる。だが、しかしブリュノはその台詞を吐く時に、ほんの数十秒、ためらってしまったのだった。ブリュノは、それを言うのをほんのすこしばかり、ためらってしまったのだった。何故ためらうのかと言うと、当然、車椅子の女性の面倒を見るという事は、ブリュノにとって生涯の重みでもあるし、またそれは、散々性的快楽を求める事しかできなかったブリュノの『自由』を阻害する事でもある。著者がこのブリュノに、たった数十秒ためらわせる、これは怖ろしくむごたらしい行為だ。だが、それによって、快楽を、自分の幸福を求める現代人の醜さが一瞬だけ、閃光のように露わになる。そして、クリスチヤーヌは、この数十秒のためらいに、ブ
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