祝い酒の夜 /服部 剛
今夜は義父の78歳の、誕生日。
2才の孫を抱っこしてもらい
僕と妻はハッピーバースデーを歌い
熱燗を注いだ御猪口(おちょこ)で、乾杯した後
義父は主賓のあいさつ、を始めた。
「どうやら時というものは
伸び縮みするようで
長ーい1分間も、ある。
あっという間の1時間も、ある。
思えば78年、早いもんだ・・・」
この世の地獄も極楽も覗いた義父は
若き日の夢にほろ酔いつつも
懐かしい物語を語らう内に
あっという間に夜は更けて――
やがて、よたりと
ベッドに潜り
いつになく幸せそうな顔で
いつしか寝息をたてていた
安堵の息をひとつ、吐き
腰をあげた妻は台所に立ち
無言の背中で、洗い物を始めた。
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