ミシェルウェルベック『素粒子』書評/yamadahifumi
 
の身を捨てて愛情だけのために働きづめに働いた人たち。献身と愛の精神から、文字どおり他人にわが命を捧げ、それにもかかわらず自分を犠牲にしたとなどとも思わず、実際のところ献身と愛の精神ゆえに他人にわが命を捧げる以外の生き方を考えたこともない人たち。現実には、そうした人たちは女性であるのが普通だった。」


 言っておくが、この祖母というのは極めて凡庸な人物である。そして、この凡庸な祖母は病室で死ぬ。この祖母の人生は、だがしかし、懸命に周囲の為に捧げられたものだった。それは絶え間ない労苦と、他人の為に捧げられた瞬間の連続だった。だが、人は今や、このように凡庸だがーーーしかし、大切な人物を見捨てよう
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