消されたピアノ/Seia
 

こういう雨の前後は
空気が圧縮されて
動くたび
身体全体がひっかかる

ほどなく
降りだした雨を確認したのは
袖の色が
変わっていたから

それは
傘の意味を問うように
自由に
人間と人間の隙間を飛んで

耳の奥がつまってしまったのか
通り過ぎる人はアワアワ
聞こえない言葉を話している
聞こえない言葉で笑っている
聞こえない言葉で泣いて
いるのかいないのか
それもよくわからなかった


私の傘返してよ


右肩のあたりで声がして
思わず
手放した傘は点線
徒歩と同じぐらいのスピードで

視線の先は霞んで
生温い空間
ただそれだけ
風景はどこまでも平べったくて
書割にしか見えなかった

上を見ても
下を見ても
この世界は
今だけ
隙間のない虫カゴ

どこかで
ピアノが鳴ったような気がした

余韻は
雨に消されてしまったけれど

戻る   Point(1)