さくらの笑み/石川敬大
 



 凪いだ水面のしずかさで
 花のように老いてゆく
 女がいる


 さくら
 と よばれた
 ひとりの女は
 ひとりの男の
 妹で


 おまえのよろこぶような
 えらいアニキになりたい
 と いいながら
 京成電車に乗って 帰らない
 兄は
 いまの妹に
 どんな言葉をかけるのだろう
 にいちゃんなぁ
 という枕詞のあとをどうつづけるのだろう


      *


 兄の年齢を
 はるかにこえ
 うつむきがちに女はおもう


 とし若くして逝ったものはいいと


 だが そのくちは
 なにも語らず
 ただ 花のしずかさで
 絵画の笑みを
 うかべるだけで





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