かあさんも受験生だった頃がある/そらの珊瑚
人はなんでもないような場面を
なぜか覚えているものだ
中学校からの帰り道
乾いたグラウンド
走者のあげる土埃
プールに浮かんだ白いはなびら
すでに樹の指先は新しい葉を生やして
吠えると知っていながら
吠えられればそのつど驚いてしまう
黒い大きな犬のむきだしの敵意
藤棚に群がる蜂の群れ
錆びた自転車から澄んだベルの音
記憶のなかで
無意識な編集をされ
膨大な英字のつらなりの
(読み解かれずに過ぎていく日常)
ところどころに
そこだけ
蛍光色のアンダーラインを
引いたように光る
燕にとって
張り巡らされた電線が
ひとときの止まり木であるように
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