まな板の鯛/服部 剛
眼下の木目のまな板に
鯛が一匹、のっている
包丁を手にした、僕は
ひと時の間、思案する
いつかの夢の誰かの囁きが
何故か脳裏にりふれいんするのだ
(かっ裁いちゃあいかん、かっ裁いちゃあ)
光と闇も
禅と悪も
日々の出来事の + と − さえも
況(いわん)や人の心の宇宙なんぞは
決して割り切れぬもの故に…
人のよしあしや
今日の一コマについて
白とか黒とか、言わぬように、僕は
振り下ろせぬ包丁のきっ先を
天にあげたまま
中道の道を、夢に見るのだ
ふと、俯けば
電球の光の粒を、小さく映した
鯛の黒目と、目があった
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