先割れスプーンは知っている/ブルース瀬戸内
 
セバスチャン、これが先割れスプーンよ
僕の記憶はこの言葉を最後に消えている。

豆腐ハンバーグを食べていたのは確かだ。
肉と大豆のコラボに心踊ったのも確かだ。
そして先割れスプーンを手にしたはずだ。
めくるめく桃源郷が僕を待っていたのに
僕はその先のことを何にも覚えていない。

肉と大豆が何を奏で何を奏でなかったか
魅惑の旋律にどんなリズムを乗せたのか
ハンバーグとしての矜持を保ち得たのか
それは豆腐の自尊心に配慮していたのか
僕はまったくをもって何も知らないのだ。

今、僕の目の前に豆腐ハンバーグはない。
挽き肉型の虚無と豆腐色の茫漠を載せた、
きれいな空っぽの
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