溺れる人魚/そらの珊瑚
指の絆創膏をはがしてみれば
血は止まったものの
いまだ なまめかしく
傷はそこにあった
たった一日
空気を遮断されただけで そこは
色が蒸発したように
あっけらかんと白く
まるで湯上りのように
ふやけていた
絆創膏は人工の皮膚である
として
もしかすると
皮膚は
何か別のものに
――臓器とか、そんなようなものの類
なろうとしていたのではないか
再生という
不思議なからくりが
予感だけでしかなかった
死を
波に運ばれていく小舟のように
沖へと
遠ざけていく
今
日常という透明な空気に
満ち満たされたこの世界が
遮断された
として
そのとき私は
別のなにものかに
――えら呼吸を獲得するとか
なろうとするのではないか
ひとさし指が示すのは海の方角
……へ。
私の末端に残る傷が
むき出しにされて
皮膚であったことを思い出したのだろう
潮風を吸って
ふたたび痛む
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