◎あぶく/由木名緒美
微笑みを恐れて泣くなど愚かなこと
胸腔を吹きすさぶつむじ風は微熱をうばい
からころと鳴る胃が律動を求める
乾燥した真昼の道は
縄に括られた首を一心に手繰り
点々と続く血の跡を浮き上がらせる
擦れ違う誰かが振り向けば
二度と歩めなくなってしまうから
ひび割れた唇を舐めながら
ただ視界に消えては映る爪先の明滅だけを見つめていた
恐いのは失うことではなく
苦痛が産み落とす債務としての 活ける恍惚が寸断されること
懐古へ逃げれば逃げるほど、時は老衰の花輪を高々と掲げ
初心(うぶ)な眼窩を皺の中に咲き零させる
盲目の手は闇を暴かれ
めくらめっぽう探し尽くせば
胎児の空虚さをもって眠りに沈む
羊水に滲む涙と血漿
それらは胎盤に掻き吸われ
母の手首へと収斂される
その肌が一筋の傷を創る時
私ももう一度産まれよう
月の懐柔する等価回路に導かれて
夜が震える触感を
空洞の胸へと迎え入れる
その日のために
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