◎インソムニア/由木名緒美
 
あなたの重心が蛍のように揺れ動く度
私は喉の渇きを覚え、疾駆しては立ち止まる

世界が傾き星空は額縁を脱ぎ捨てる
遠い地平から、心臓を灯火に祈りを捧ぐ一群が
集合無意識の亀裂を修復しようと蝙蝠(こうもり)達を飛び立たす
それらは無数の孔に覆われた私の記憶を突き抜け
萎びた両脚をも掬い上げ
あなたの痕跡を辿って明かりの消えた母屋の屋根へと導いた

静かな街は寝息の淡雪を降らせ
住人達を赤子のようにかき抱く
不穏な舌は路地から路地へと徘徊し
覚醒の臍の緒を暴き出そうとするけれど
それらには視えないのだ
稚魚が夢を泳ぐ影を
誰も止めることのできない若木の背丈を
決して満ちることのない嗜虐の水たまりは
その舌で自らを蒸発させていくことだろう

遠く近く
浮遊するあなたの夢が揺れ動く
その尾を辿り、私は夜空を飛び跳ねる
朝には素知らぬ口づけであなたを起こすために
追い縋る影の追尾を背に回し、深まりゆく朝と星々の安息を祈りながら
瞼を透かして夢の断裂を縫い上げた


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