風の祈り/服部 剛
に坐り
井上神父の親友の遠藤先生の
かたみを両手で握り、目を閉じた――
かたみは声無き声で、囁いた
(詩人なら、未知の世界へ立ち上がれ…)
*
翌朝、目覚めた僕と妻は
枕元に、在りし日の
井上神父の手紙を置いて
心を一つに、唱和した
「僕等はあの日、風の家で受洗した
あなたの弟子です。
僕等を待つ、異国の白血病患者に
この祈りが、どうか届きますように…
アッバ アッバ 南無アッバ 」
唱えると何故か
必死でこちらに頭を垂れる
異国のひとが
僕等の前に坐る姿が
薄っすらと観え――
涙のあふれた僕の頬を
妻の指がそっと拭った
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