きつねのよめいり/そらの珊瑚
いということはそういうことなのよ
狙い定めて天から落ちてくるの
実は神様なんか大嫌いだったの、と言う
のぞきこんだ
彼女の瞳の奥は今にも決壊しそうだった
雨が小降りになると
それではお先に、
また会いましょうと言って
彼女は出ていく
どこへゆくの? と問いかければ
ぼんぼり町まで。
そこできつねと祝言をあげるのと
明るい調子で手をふったあと
彼女は消えた
あとに残されたのは白い煙
そうね、命はあとかたもなく
燃えてしまうものだったわね
さて、わたしはどこへゆけばいいのだろう
宝物の中身は何だったのだろう
尋ねる人はもはや旅立ってしまったし
胸に手を当ててみても思い出せない
そんなもやが晴れるまで
わたしはましろな足袋をはいたまま
旧暦の春のすきまで
――ああ、答えのない問いが育っていく
のびた自分の影をみつめ
小さな迷子にでもなった気分でいた
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