もやし炒め/たま
カットに皺だらけの顔
八十二歳のわがままな少女は動けないことが不満だ
もやしのような細い右足を投げ出して
今日は寒いか。と訊く
昭和三十五年、父は三十路で逝った
ひどい潰瘍を我慢して働いていたのだろう
十二指腸が裂けてしまったという
運のないひとだったのか
三月ほどして母は退院した
車椅子の母はカタツムリのように
ホームの廊下を移動する
まだどこかに残っているのだ
生きるための
潤いを求めて
細々とのびる白い根が
重石のような冬の下で
春を待つ
母とわたしの根っこ
父の好きだった
もやしのような根っこ
戻る 編 削 Point(30)