◎餞/由木名緒美
 
餞(手なずける、価値を洗う)

掛けねを外せば、
誓った小指の奔流がしぶきをあげて
耳の浜辺に打ち寄せてくるのなら
瘡蓋も指輪も剥がしてむせび泣こう

信頼が断罪されるさまを
私秘の傍観者に紛れて目を細める君を
両の手の平で覆い隠すことができたのに
花束に差し込まれた付箋には
「虚実に宣誓を」
華やかに咲く花々が赤子の瞳で見返している

突き返すには遅かった
君の額は無実を映し
私はそれを肯うほかない
幾夜のあたためられた正餐は
私達の喉元に泥となり不和を吐き出させる
開かれた手は遺物を求めむなしく震え
断崖の無音をもって翻意に帰す
存在の枯渇、前奏を以って閉幕される
その音源を辿り両手を打ち叩いた

すべてだったものを
餞として立ち上がる私を披露して
美しく波打つ策謀を
満潮の砂上に墓標のように打ち立てて
いつか永劫の未来へと漂着する
不実を具現する己の蜃気楼へと惑うまで

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