夜鳴り/由木名緒美
 
不協和音の刻まれた頬
顔皮一枚外隔てた胸裏で美言を弄する君
聴診器を押し当てるよう、その薄い胸板に耳をつけて
くぐもった真意を推し量る私は
酔いの千鳥足で不慣れなステップに追いすがる為
君の胸への姑息な回避に終始する鼠

駆逐された無音の蜂の巣にミラーボールが光を分裂させ
幾千の瞳孔を輝かせる
小さな巣穴から覗いただけでは
その眼球の悲哀がわからない
君の涙を齧っては
むなしく夜を駆けずり回る

祖母から教えられた秘薬は
もう君を眠らせるに充分な量なのに
夜空は擂り鉢状の胃袋を裏返して
いよいよ深みゆくばかり

理性を求め過ぎてはいけないの
思慮深い戯言を吐き捨て
圧倒的な真空に身を委ねる
差し伸べる手は火照る骨の囁きに行き着き
浮上することのない夜が
あなたとの間の撞着に拍車を掛け
息を止めて祈っては、朝の冷気に魂を癒す

分断された精神 その裾を繋いで
あなたとの口付けが肉薄されゆく様を
最初の絵筆にさらい、まっさらなキャンバスに落とした
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