3月11日/こひもともひこ
 

◇鎮魂歌

瓦礫
  ガレキ
     餓轢

風が吹いている
 日常は返らず
 実情は翻らず
 想い人帰らず

瓦礫が恐ろしいわけではない
そこで奪われた生命と
 共に積み重ねた暮らしが
  元には戻らないことが恐ろしい

      残骸
  ザンガイ
惨害

腐臭が主張する
 船舶は陸に上がり
 自動車は動かぬゴミ
 生命は土へ戻り

残骸が悲しいわけではない
そこに埋もれた肉体と
 共に歩き目にした街並が
  元には戻らないことが悲しい

悲しみ
カナシミ
 哀しみ

すべては泥にまみれ
 泥の中へ静けさを
 泥の中
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