円滑水槽/こうだたけみ
る。
大河の三角州のごとき生ゴミの箱は、流れ止まることを知らない人々の間に横たわったまま見えつ隠れつし、すでにこの位置からは覗けない。男からは絶えず潮の香が溢れているはずだ。しかし鼻づまりの酷い俺らには少しも感じられないのであって、立ち止まることは許されず、もし立ち止まれば待っているのは酸素吸入の停止とその先の静寂。
男は見世物ではない。むしろ見られるべきは。
あらゆる疑問を確かめたいのなら、立ち止まることに因る身の危険は覚悟するべきで、俺らにはそんなふうに粗末にできる命の持ち合わせはないどころか、もし持ち合わせがあったとしても、確かめる前にあとから来る俺らに押し潰され無駄死にするのが関の山。男が一人で使い切っちまった瓶詰めがこの街の人口分ありさえすれば、立ち止まり、ふと考えることも可能だったかもしれない。
と、考え切らないうちに急かされ、歩みを速める。俺らの誰も男のようにはなりたくないのであって、海は遠く、潮の香はしないのだ。どうやら、鼻づまりのせいだけにはできないのかもしれない。疑問は、暇な奴だけ持つといい。
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