配慮/Lucy
次々に駆けて行くのが見えた
次の瞬間 雪の斜面に大きな鹿が
不自然な姿勢で倒れ
頭を下に向けたまま首をねじるように起こし
手足を虚しく動かしながら
おそらく川と思われる方へ
少しずつずり落ちていくのが見えた
それはたった今しがた
この列車にはね飛ばされた鹿にちがいない
「異常がありませんので発車いたします。
遅れましたことをお詫び申し上げます。」
静かに車掌の声がした
「運行に支障がない」ということと
「鹿の安全」とは関係が無い
遅れを取り戻し
目的地に定刻に着けるかどうかということだけが
この場に必要な情報だった
まして衝突した鹿が
瀕死でもが
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