龍のいない青空/石川敬大
 

  ――夕映えがきれいだった あのころ
  もし自転車にのれていたなら
  ほかの街で ほかの暮らしをしていたのかもしれない

 すでに滅びた高句麗の
 釘のように錆びた川がながれる
 ふるい案内板がこの街にある
 古名《コマ》
 ハングル読み《コグリョ》という架空の
 博多湾はその朝 霧がふかくて
 貨物船が接岸する人工湾岸の岸壁で潮風にふかれボーゼンとつっ立っていた
 杭のように誘導灯のように
  ――英雄ヘモスの子、建国王チュモンから韓流の物語をひらいた
 かれの海は
 くだける波頭であり
 もろく崩れおちる橋であるけれど
 高句麗とこの街を隔て
 高句
[次のページ]
戻る   Point(7)