運河の夜/藤原絵理子
 
:「で,一生懸命,三脚担いで倉庫の夜景を撮ってる,と」
S:「そう.で,ホテルのロビーに,あなたが現われたときから思ってるんだけど,その傘は?」
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H:「雨が降れば,当たり前のように傘をさして濡れないようにする.少々面倒ではあるが,衣服が濡れるのは好きではないし,まして,カゼなんかひいたら,取り返しがつかない」
S:「取り返しがつかない…」
H:「そ」
S:「けど,今夜は雨は降りそうにない」
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H:「持って来るかどうか,ずいぶん迷ったけど,結局持って来たのは,きみのためを思ってのこと」
S:「あたしの?」
H:「もし,きみが運河にでも落ちたときに役立つかな,とかね」

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