ヴェネツィア/藤原絵理子
作は動物的ではないので,注視していないと彼が咀嚼しているのかどうかはわからないほどである.なので,注意力散漫な人々からすると,彼が吸い込んだ食べ物をそのまま飲み込んでいるように見える.ヘビがネズミを丸飲みするように.
小さな白いビキニの女は,それとは全く逆である.今,彼女の前にある皿には分厚いステーキが載っている.焼き具合は,フォークを突き刺しただけで血がにじみ出してくるほどのレアである.彼女はそれに少々の塩と,肉が覆い隠されるほどの黒胡椒をかけて食べる.テーブルの上にはソースポットに入ったイタリア風のステーキソースが用意されているけれど,それは使わない.彼女は切り取った肉片を,とてもおいしそ
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