せいしょくしゃ/鈴木陽一レモン
 
世物にしました
面会謝絶の集中治療室なのに
見物料を払えば誰でも出入り自由でした
ボンテージナースが父に跨り注射を打ち込みます
午前中は見物料400円でパンとコーヒーが付いてきます
午後も日替わりのケーキが選べました
四日目の朝に、父は息を引取りました。


だから ぼくは ひとりなんです

今、ここで僕が語っているのは僕の作り話に過ぎません。
けれど、それでも僕は ひとりなんです。

ひとりきりの小説家なのです
だから、僕は

僕の将来の夢は泡沫候補です。
はじめから存在すらなかった透明な、あの父のような
きわめて泡沫な立候補者に、なりたいのです。




『将来の夢』
6年2組の授業参観
一人の生徒が、このような作文を読み上げた。

その朗読を聴き終えた教師は
「素敵だね」
と、囁いた。
「この子の精液を飲んでみたいな」
と、心で言っていた。

戻る   Point(4)