些細なこと/林 淳子
さき程まで空にたくさん
色とりどりの風船が舞っていたのに
夕暮れになり
北よりの冷たい風が
静かに吹き出した頃
不気味な雲は音も無く近づき
突風をかます
構える姿勢はとれず
背を向けて逃げ出そうとしたが
よろけても容赦なくおそってくる
突風と同時にコールタールのような
黒い雲から大粒のあめ
その
心もとない左手でゆっくりと
押さえながら構築した危うい理論は
破綻を繰り返し朽ちて行く
このプロセス
あのプロセスとたどるが その先にあるのは
プロセスチーズ
プロセスチーズは
消しゴムみたいなので実は嫌いです
小さな告白を手短にすると
体を起こしビールを飲む
戦地からの便りを待つ君は
先ほどの雨をたくさん含み
じっとりと重くなったTシャツを
脱げずにベッドサイドでぼんやりと
外をみつめる
虫の音 つきあかり
黒い鉄骨 その先に広がる山の稜線
それらを見つめる瞳は
すべてを吸い込み
すべてを落としてゆく
その瞳は飽和した液体のように
機能せず
そこに存在している
戻る 編 削 Point(5)