夜空のすきま/林 淳子
インフルエンザの予防接種も
レーシックを受ける人も
信じられない
そういった君の足元で
細い小枝が折れる
冬がやってきたから
この森にも
早い夜の始まりを告げるように
針金のような細い月と金星が昇る
深い湖の底にむかって
たくさんの錠剤やカプセル
茶色いアンプルやバイアルが沈んでゆく
湖の底ではスロウテンポに堆積物が舞い
それらを飲み込んでゆく
明日の朝方まで
たくさんの星が夜空を飾るように
冷え込む夜は
金色の細いリングを指に通す
身支度が整う頃には
インフルエンザの予防接種も
レーシックを受ける人も
信じられないといった
君の言葉も森の奥深くで跡形も無く
消えている
小道に届く月明かりに
はがれ落ちた言葉は鈍く反射し
見逃す
冬が近づいているけれど
雪はまだ
氷のかけらが君の左手首で光るぐらい
明日の朝、
一筋の光の帯が稜線にそって現れるころ
君の寝顔もほころぶだろう
見えない冷気など
気にもせず君は眠り続ける
その暖かい羽毛の隙間で
全てを葬り去ったのだから
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