牧場/Lucy
」と声をかけると
父の瞳がいつになく暗く輝いて
私の顔をじっと見た
「俺はなんだ?マムシか?ヘビか?」
唐突にそんな事を言う
倒れてから一度も見せたことのない表情
「俺の迎えは、遅いんでないか?・・もう、いいだろう」
私だけに見せたと思う
父の思いを受け止めなければと焦る
「おとうさん、そんなことを思っていたの・・」
涙がこみあげてきて
それ以上は言葉が出ない
父の目にも涙がにじむ
わかっているんだ
お父さん何もかも
わかっていて
家族に心配かけまいと
いつもにこにこしていたの?
流れる涙をぬぐっていると
「俺は、今日は行けるかなあ」という
「どこへ?」と訊くと
「牧場よ」
「ぼくじょう?牧場へ行きたいの?」
父の瞳から暗い光が消えている
「ああ、馬三頭放してあるんだ。」
若い日の記憶に戻って行ったのか
光に満ちた草原を
三頭の美しい裸馬が
風のように駆けて行くのが
私にも見えた
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