粉糞/ヒヤシンス
なぜだか私は卑怯者のように口を閉ざしてしまった。
まるで描写に値するものを失ってしまった画家のように。
よもや今に始まった訳でもあるまいに。
そう、私は穴蔵の鼠で人知れず格闘しているのだ。
言い訳の住人に成り下がって、さぞや先祖もお怒りだろう。
ピアニストは楽譜が読めず、絵描きは色盲で、喫茶店には珈琲が置いてない。
いや、これはいけない。言い訳の足湯に浸かっている。
とはいえ私の内部では日毎殺戮が繰り返されているのだ。
私の遺影が古い寂れた木枠に押し込まれてよれている。
私は私を限定している。
世界はこんなに広いのに。
あるがままの自分を解き放たなければならない。
現代に生まれた私は自由であるはずだ。
それでも夜中に目覚める私の目に映るのは、苦笑する人々の顔だけだ。
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