「石狩川」/Lucy
小さな無人駅があった
その小説を私がついに読み終えたのは
信じられない程の年月を隔てた今年二月
北の街の病院で入院生活を送った時
窓の外に粉雪は吹き荒れ
遠くに細く海が横たわっていた
桝井先生、
あなたがこれを読みなさいと言った理由(わけ)を
私はようやく知りました
縁あって夏のはじめに訪れた
「あいの里」という地名の駅の
ホームのはずれのフェンスに寄り添い
見上げれば
淡い光に染められた空は
広大な石狩平野を見下ろしている
ほんの百五十年ほど昔
熊笹をかき分けて
先人が苦労の末に築いた道を
じっと見おろしていたように
重い鞄を下げ橋の袂から見上げた私を
あの日見おろしていたように
(「蒼原」94号 2013,12月)より…※一部分修正しました。
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