「石狩川」/Lucy
 
西の空を覆う厚い雲を
僅かに縁取り
淡い光が
放射状に
さらなる高みへ腕を伸ばす
羽毛のような桃色の塊が
透明な大気の層に漂うあたりへ

空はいつまで記憶するだろう
人の視線を

私はまだ高校生で
あの高いところの雲を目指し
羽ばたいても
きっとたどり着けない鴉を見ていた

「石狩川」という小説を
必ず読めと地理の先生が言った
「君達、問題意識を持つんだ」
という口癖を
クラス会に集まる度に
誰もが憶えていると言う

本庄睦男の文学碑は
鉄橋の傍に在り
文芸部の先輩と訪ねた事もある
錆びついた鉄骨に
鴉が啼いて群がる線路を
歩いて渡ると

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