メアリーからの手紙/村田 活彦
親愛なる子どもたち
カレンダーは夏になったというのに
窓の外には雨が降り続いています
ペンを走らせようにもインクがすっかり凍ってしまいました
それでも息を吹きかけ便せんをひっかいては文字を綴ります
遠いあなたに届くように 世界の涯で響くピアノのように
親愛なる子どもたち 私は書き続けます
くたびれた靴やあかぎれの耳たぶ そしてゆうべの夢を
思い描けばそれは本当になる 見えなくてもそこにある
嵐の夜の戯言からどんな悪夢も生まれるでしょう
けれど本当に恐ろしいものの姿を私たちは想像できるでしょうか
私が伝えるのはおとぎ話 けれど本当にあった話
むかしむかし神
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