白い蕾/Lucy
冬になる前に
庭のバラを剪定した
咲き遅れた蕾の枝を
花瓶に挿しておいた
膨らみかけていた他の蕾は
次々に開くのに
その白薔薇の蕾は
しばらくはじっと蒼いまま
ある時
限界を迎えたように萼(がく)が裂け
首元に反り返ると
躊躇(ためら)うように
蕾は僅かに膨らんでいた
それは
残りの命を振り絞り
咲こうとしているようにも見えたし
頑なに
咲くまいとして
堪えているようにも見えた
やがて
葉から緑が抜け始め
次々に落ちた
萼の色も枯れ色になり
閉じたままの蕾の外側の花びらも
端から水分を失ってゆく
冬は曖昧な保留の白さで
窓外の景色を埋めてゆく
街路樹の根元に
ヒマワリやコスモスの種を忘れながら
白い蕾は変わらなかった
変わらないという決意のように
執着のように
未練のように
あるいは
思い違いのように
蕾の声に耳を澄ますと
自分の声が聞こえてくる
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